真逆

東北もいよいよ梅雨入りしたようです。

 

それでなくても年がら年中湿度の高い秋田ですから

ますます不快な時期に突入・・・ですが、

逆に考えるとしっとりとしていてうるおいがある季節とも言えます。

 

 

「逆に考えると・・・」で思い出しました。

 

 

生前、姑が好きで手をかけていた畑や庭があります。

 

 

かなり手入れをして土を育てていたのでしょう。

 

 

とても良質のものになっています。

 

 

ところがなかなか手を加えることが苦手な私

 

 

この季節になると土の質がやわらかく良い土がゆえに、

雑草もここぞとばかりに生き生きと伸び始めます。

 

 

その中で困ったこと

 

 

ドクダミ

 

 

 

ドクダミ

 

 

ドクドクドクダミ!!!

 

 

 

根が深く、とってもとってもあっという間に広がっていきます。

 

 

あの真っ白の花さえ、とてもイヤなものに見えます。

 

 

あ~、またドクダミとの戦いか・・・

 

 

「薬をまいて根絶やしにしよう!」

 

 

そう思ったその日です。

 

 

 

思い出したのです!!!

 

 

私の知り合いが、奥さんのためにドクダミを摘んで乾燥させ、

手で揉んで、ドクダミ茶として奥さんに作ってあげていたことを。

 

 

 

 

「でもね、作っても妻は一口も飲まないんだよ・・・」

 

 

寂しそうにそのことを教えてくれた佐々木さん

 

 

ある日、倒れてそのまま救急車で搬送されました。

 

 

 

たまたま近くにいた私が救急車に乗って病院まで付いていきました。

 

 

 

でも意識もなく、まったく反応がありません。

 

 

元気だった頃、私を見るとわざわざ声を掛けてくれた佐々木さん。

 

 

「体調が悪いんだよ」といって黄疸の症状が出ていた佐々木さん。

 

 

あるときは激しい頭痛に見舞われ道路にうずくまっていた佐々木さん。

 

 

声を掛けて話を聞いていたら、奥さんのことをぽつぽつ話しはじめてくれました。

 

 

「自分はね、婿なんだけど、妻とほとんど口をきかなくてね。

 朝は握ってもらったおにぎりを持って、コンビニの駐車場に車を止めて

 ひとりで朝ご飯を食べて仕事に行くのさ。大体朝、5時半ころに食べてね。

 それがここ何年も続いているんだ。

 でも、妻には健康でいてほしいから、ドクダミを摘んでお茶を作るんだよ。

 妻は一回も飲まないけどね。」

 

 

そう寂しそうに言って、力なく笑った佐々木さん。

 

 

搬送された救急病院では手の施しようがなく、

東北で一番施設の整っている大きい病院へ一緒に行きました。

 

 

 

そして、仕事先から駆けつけた奥さん。

 

 

 

 

 

一緒にお医者さんの話を聞きましたが、

一度も救急の黒いベッドで横たわっている佐々木さんを見ることがなかったのです。

 

 

数メートル先にまだ呼吸をしている佐々木さんがいるのに・・・。

 

 

脳の血管が破裂して、それが致命傷になっているというドクターの説明を聞いて、

思わず出てしまった言葉・・・

 

 

「お願いですから、一度、佐々木さんに声を掛けてあげていただけませんか?」

 

 

他人の私がいうこっちゃないとわかりつつも

言わずにはおれなかったのです。

 

 

でも、一度も声を掛けなかった・・・。

 

 

その間、お嫁さんや親戚の方たちに電話で事の次第をお話してました。

 

 

「おそらくもうダメだと思います」と。

 

 

最後の最後だったらなおのこと旦那さんの近くにいて欲しい

 

 

 

ドクターから説明を受けて、9階の治療室にストレッチャーで運ばれた佐々木さん

 

 

奥さんをひとりにしておくことが出来ず、

私も一緒に専用エレベーターに乗り込みました。

 

 

「佐々木さん、佐々木さん・・・」

 

 

声を掛けると眼球がキョロキョロ動くのが解りました。

 

 

「あ、佐々木さん、聞こえてるんだ!」と一瞬感じたのです。

 

 

でもそれは、病気のための反射だと知りました。

 

 

狭いエレベーターの中でした。

 

時間にするとほんの数十秒です。

 

でも、一言も声を掛けなかった奥さんを見ていて

私にはその空間にいる時間がとてつも長く感じられて仕方ありません。

 

 

 

9階の病室(おそらく最後の時を処置する場所)に入る佐々木さんを見守り、

駆けつけてくれた息子さん夫婦とドクターの話を聞き、

挨拶をして私は病院を後にしたのです。

 

 

発見から4時間後、「亡くなった」という知らせを聞いたのはその日の夕方です。

 

 

 

そして、翌日の火葬に参列しました。

 

 

最後の最後、本当にお別れの時

 

 

棺桶にすがって

「お父さん、お父さ~ん!目を開けてっ!これから孫たちも大きくなるのに、それを一緒に楽しみにしてたんでしょっ!まだこれから、いっぱいいっぱい成長を見るって約束したでしょーーーーー!!」

 

 

嗚咽とともに大きな声で佐々木さんすがり、

顔を愛おしそうに優しくさすっている奥さんの姿がありました。

 

 

何かのすれ違いで生前言葉を交わさなかった夫婦。

 

倒れたとき、警察からの事情聴取で

ご主人の最近の体調の悪さも

「全く知りません。体調が悪いなんて聞いたことがありません」と答えた奥様。

 

 

最後の最後に心から佐々木さんに思いを伝えていた奥様。

 

 

その奥様の本当の姿をそっと拝見していて、

涙がとめどもなく溢れました。

 

 

今でも生前の佐々木さんの笑顔が思い出されます。

 

 

 

ドクダミを見ながらそんなことを思い出した一日です。

 

(つづく)

 

 

真理を頭で考えるのではなく、

人間は真理を真理として

ただ受け入れることしか出来ない

ということを自覚する。

 

 

佐藤康行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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